仁者壽[芸術公論 22号]
「願いは書線にあらわす」
悠々と湧き出ている雲のような土田帆山氏の「仁者寿」である。広大な景をみせて、「仁徳ある者は命長し」という、元気でいられることに感謝し、願望を込めて隷書体を基に書いた作品という。
今年の誕生日で八十六歳になるという帆山氏であるが、紙面上部に分厚い墨痕をおいて、紙面を切り取ったようにみせた箇所などは従来の書にはないことで、前衛精神未だ衰えず、下部の線条と空間が際立ち、ねらいが的確であることを感じさせる。書の醍醐味を見事に感じさせてくれているのではないだろうか。
書の美とは何か、書の魅力とは何か、この人の作品をみるとその答えが目の前にあるような気がするから不思議だ。幅広い表現のなかから、書である理由を深く理解している作家なのだろう。ここから育った俊英たちも多いのはうなずけることだ。
一筆一筆に生命をたぎらせ懸命に生きようとしている書家の仕事をみた気がする。(文・花森史朗氏)
出典詳細
芸術公論 22号