作品名:「剛(毎日展大賞受賞作品)」 [第17回毎日書道展『剛』 ]
第17回毎日展大賞 受賞(46歳)
東京本社から梅津恵さんが来て「ときの人」に取り上げて下さった
細井・田中両先生が同席して下さり実に忘れ難い一刻であった 全国版に掲載された(2006年本人談)
第17回毎日展(大賞受賞) 160×140cm 越前市民ホール蔵
新聞「ときの人」より引用〜
毎日書道展は今年で第17回を迎えたが、第四部(少字数作品)に大賞が与えられたのは初めて。その栄冠を獲得したのがこの人で、福井県武生高の書道の教官である。
「少字数の新しい分野の開拓にいそしんで七、八年。日本的な書道-文字の持つ造形の美しさを、近代芸術としていかに創造するか、自分なりに精進したのが報いられてうれしい」と手放しの喜びようだ。今度の作品は、六尺×六尺に「剛」の一字を雄渾に表現したもの。
「この一字だけに情熱を打ち込んで五年だったでしょうか」この間、さだ子夫人がガンとの闘病に勝ち抜いた気力が、どれだけ創作のはげみになったかしれないらしい。「死ぬかも知れぬ」淡路の由良要塞で、せっせと穴を掘っていた築城係下士官のときでも、ハイノウの中に筆やスミ、スズリを忘れなかったという。
福井師範(第二部)卒。「字が下手だった」ので戦後に、母校の教壇に立つ前からこの道に入り、今ではブリュッセル博の近世50年展でグランプリをうけた独立書道会代表、手島右卿先生の愛弟子として洗心書道会を主宰して十一年。少字数作品をひっさげて六年前に銀座回廊で会展をもち、すでに中央から強く注目されていた。
幼いときから「空海の書を愛してきたが、近頃は良寛の書に心ひかれてならない。そのもつ味わいには遠く及ばないとはいえ、近代感覚に通じるものがあって、教えられるところが多い」だから「こんどの受賞を機会に、より一層、ここしばらくは、少字数の作品に生命をかけたい」と、総髪をかきあげながらいう、そのことばには、相手の心にしみとおるものがある。
総髪といえば、昨年十月、文部省の主催で全国から125人の教官が選ばれ、ヨーロッパの教育事情を視察した時、ただ一人、紋付、羽織に白足袋で押し通し、パリではオペラ座の近くで、色紙三百枚の街頭個展を開き、日本人の晴れ姿であっと驚かせたのも、この人らしいが「近代芸術としての書道が、かえって外国人に理解されたことを知り、こわかった」と率直な実感をもらしていた。