作品名:「鬼神」 [第49回毎日書道展]
「鬼神」〓古代文字による造型。「鬼」は象形指示文字。人が大きな面をかぶって死者の霊に扮する様。「神」は会意形声文字。祭壇と雷神・天神の原意を持つ。合わせて人知を越えた霊妙な働きと解する。
文字の原型を辿ることは私達の精神の源流を辿ることでもある。氏は近年、こうした古代文字の造型と意義に触発されて新感覚豊かな作を多く発表しているが、ことに二文字が対応して響き合う空間構成が見事である。
書道藝術 1997年9月号
【1997 11 鬼神 論評アートマインド 49回毎日書道展】
土田帆山が所属する独立書入団は、1950年代に少字数書という新しいジャンルを創造した
芸術集団で、その活動は、リーダーの手島右卿を中心にして日本各地に広まり、海外でも紹介されてきた。帆山は、この独立書人団の創立会員として、福井を中心に活躍し、東京はおろかニューヨークなどで個展を開く活動家である。しかも、師匠の右卿の影響を色濃く受けてきた。
この少字数書は、その後、一字書となり、さらに昨年から大字書と呼び名は変ったが、右卿の唱えた「文字の意味にふさわしい書を創る」精神は生き続く。帆山は好んで素材に金文を使い、金文の原形に帆山特有の行草スタイルの線を附与L、「鬼神」の二文字を妖奇的に動きに節をつけて押し進む。構成は上部を横長に安定させ、下部は左右から斜めに支え立つというバランス感覚である。湊墨の効果的なにじみも、原像を明確にする。
(小野寺啓治)